睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?:検査と治療をわかりやすく解説
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。これにより、体内の酸素が不足し、睡眠の質が著しく低下します。日中の強い眠気や集中力低下だけでなく、高血圧、糖尿病、心臓病などの生活習慣病や、脳卒中、心筋梗塞のリスクを高めることが知られています。
1. 睡眠時無呼吸症候群の種類
大きく分けて2つのタイプがあります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS): 最も一般的なタイプです。空気の通り道である上気道(のどや鼻の奥)が、舌の根元や扁桃腺の肥大、肥満による脂肪などで塞がれることで起こります。いびきをかくことが多いのが特徴です。
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS): 脳からの呼吸指令が一時的に停止することで起こります。いびきをかかないこともあります。心不全などの病気が原因となることがあります。
2. 検査:あなたの睡眠の質を「見える化」する
睡眠時無呼吸症候群の診断には、いくつかの検査が必要です。
(1) 問診・診察
まず、医師があなたの症状について詳しく聞き取ります。
- 主な症状:
- いびき(特に大きないびき、呼吸が止まるいびき)
- 日中の強い眠気(会議中、運転中など)
- 夜間の覚醒、トイレに起きる回数が多い
- 起床時の頭痛や口の渇き
- 集中力や記憶力の低下
- 倦怠感、だるさ
- 既往歴: 高血圧、糖尿病、心臓病などの有無
- 生活習慣: 飲酒、喫煙、肥満度など
(2) 簡易検査(自宅で行うスクリーニング検査)
自宅で手軽に行える検査です。睡眠の質に問題があるかどうかの目安を知ることができます。
- 検査機器:
- 指に装着するセンサー(パルスオキシメーター):血液中の酸素飽和度を測定します。
- 鼻の下に装着するチューブ:呼吸の状態(鼻からの空気の流れ)を測定します。
- 胸に装着するベルト:呼吸に伴う胸やお腹の動きを測定します。
- 検査の手順:
- 検査会社から機器を借りて、自宅で寝る前に自分で装着します。
- 普段通りに就寝し、一晩データを記録します。
- 翌日、機器を検査会社に返却します。
- 結果:
- AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)という値が算出されます。これは1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示します。
- AHIが5回以上の場合、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるとされ、精密検査が推奨されます。
(3) 精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー検査)
睡眠時無呼吸症候群を確定診断するための最も詳しい検査です。病院に1泊入院して行われることが一般的です。
- 検査機器: 簡易検査で用いるセンサーに加え、さらに多くのセンサーを装着します。
- 脳波: 睡眠の深さ(レム睡眠、ノンレム睡眠など)や覚醒の状態を測定します。
- 眼球運動: レム睡眠を判定します。
- 筋電図: 睡眠中の体の動きや、脚のぴくつき(むずむず脚症候群など)を測定します。
- 心電図: 心臓の動きや不整脈の有無を測定します。
- いびき音マイク: いびきの大きさを測定します。
- その他、口や鼻からの空気の流れ、胸やお腹の動き、血液中の酸素飽和度など、多くの項目を同時に記録します。
- 検査の手順:
- 夕方に病院に入院し、専門の技師が体にセンサーを装着します。
- 普段通りに就寝し、一晩中、様々なデータを記録します。
- 翌朝、センサーを外して退院します。
- 結果:
- 睡眠中の呼吸の状態、脳波から見た睡眠の質、酸素飽和度の変化などが詳細に分析されます。
- これにより、無呼吸・低呼吸の回数や重症度、睡眠の分断化の有無、その他の睡眠障害の合併なども診断できます。
- AHIの数値によって、重症度が判定されます。(軽症:AHI 5~15、中等症:AHI 15~30、重症:AHI 30以上)
3. 治療:快適な睡眠と健康な生活を取り戻すために
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、重症度やタイプ、患者さんの状態によって異なります。
(1) 生活習慣の改善
軽症の場合や、他の治療と併用して行われます。
- 減量: 肥満は上気道を狭める最大の原因の一つです。無理のない範囲での減量を心がけましょう。
- アルコールの制限: 寝る前の飲酒は、上気道周囲の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させます。
- 禁煙: 喫煙は上気道の炎症を引き起こし、いびきや無呼吸を悪化させることがあります。
- 睡眠姿勢の工夫: 仰向け寝は舌がのどに落ち込みやすく、無呼吸を悪化させます。横向きで寝ることで改善する場合があります。(抱き枕の利用なども有効です。)
- 規則正しい睡眠習慣: 毎日の就寝・起床時間を一定にし、十分な睡眠時間を確保しましょう。
(2) CPAP療法(シーパップ療法:持続陽圧呼吸療法)
最も効果的で広く行われている治療法です。特に中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に有効です。
- 仕組み:
- 鼻または口に装着するマスクを介して、装置から一定の圧力をかけた空気を送り込みます。
- この空気圧が、睡眠中に狭くなったり閉塞したりする上気道を広げ、呼吸を確保します。
- 効果:
- 無呼吸や低呼吸が解消され、血液中の酸素濃度が正常に保たれます。
- 睡眠が分断されなくなり、質の高い睡眠が得られます。
- 日中の眠気がなくなり、集中力や作業効率が向上します。
- 高血圧や糖尿病、心臓病などの合併症のリスクを軽減します。
- 使用方法:
- 毎晩、就寝時にマスクを装着し装置を作動させて眠ります。
- CPAP装置は、健康保険適応のレンタルで、月1回の受診で効果を確認し、調整を行います。
- 注意点:
- マスクの不快感、乾燥、鼻炎などの副作用が出ることがありますが、マスクの種類や設定の調整で改善されることが多いです。
- 継続して使用することが重要です。
(3) マウスピース(口腔内装置)
軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に有効な場合があります。歯科医と連携して作製します。
- 仕組み:
- 下あごを数ミリ前に突き出すように固定する特殊なマウスピースを装着して眠ります。
- これにより、舌の根元が上気道を塞ぐのを防ぎ、気道を広げます。
- 効果:
- いびきや無呼吸が軽減されます。
- 注意点:
- 歯並びや顎関節の状態によっては使用できない場合があります。
- 顎関節の痛みや歯の圧迫感が出ることがあります。
(4) 外科的治療
特定の状況で考慮されます。
- 扁桃腺・アデノイド切除術: 小児の睡眠時無呼吸症候群で、扁桃腺やアデノイドの肥大が原因の場合に有効です。
- 鼻中隔湾曲症手術: 鼻の通りが悪い場合に考慮されることがあります。
- 軟口蓋形成術(UPPP: 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術): 軟口蓋や口蓋垂が大きい場合に、それらの一部を切除して気道を広げる手術です。効果には個人差があります。
- 顎顔面手術: 下あごが小さいなど、顔の骨格的な問題が原因の場合に、顎の骨を前方に移動させる手術です。重症例や他の治療で効果がない場合に検討されます。
(5) その他
- NASAL DILATOR(鼻腔拡張テープなど): 鼻づまりが原因でいびきが悪化している場合に、一時的に鼻の通りを良くするのに役立つことがあります。
- 薬物療法: 中枢性睡眠時無呼吸症候群の場合、基礎疾患(心不全など)の治療が優先されます。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや眠気だけでなく、全身の健康に大きな影響を与える可能性があります。しかし、適切な検査と治療を受けることで、症状を改善し、質の高い睡眠と健康な生活を取り戻すことが可能です。
「いびきがひどい」「日中に強い眠気がある」など、気になる症状があれば、まずは医療機関(睡眠専門医、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、内科など)を受診し、相談してみてください。早期発見・早期治療が何よりも大切です。
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